ワインは言語②

「男性的」「女性的」とは?

ワインを勉強していると、ときどき不思議な表現に出会います。

「男性的なワイン」「女性的なワイン」というのも、その一つです。

代表的なものとしては、BordeauxのChâteau Latourは「男性的」、Château Margauxは「女性的」と表現されているのを聞いたことがあるのではないでしょうか。ワインの教科書だけでなく、テイスティングコメントやワインを紹介する動画などでも、ときどき耳にする表現です。

ところが、私はこれが昔からよく分かりません。Latourを飲んで、「うむ、男性的だ」と感じたことがないからです。

もちろん、言いたいことがまったく想像できないわけではありません。一般的には、力強い、骨格がしっかりしている、タンニンが強い、といった特徴が「男性的」、繊細、華やか、柔らかい、優美といった特徴が「女性的」と表現されているのだとは思います。

でも、そう考えると新たな疑問が生まれます。

どの辺が「男性的」なのか?

例えば「タンニンが強い」ことを男性的と呼んでいるのでしょうか。それなら、「タンニンが強い」と言えば済む話です。

しかも、女性的とされるChâteau MargauxだってCabernet Sauvignonを主体とする長期熟成型のワインで、しっかりとしたタンニンを持っています。Textureとして確かにsilkyとかvelvetyとかいったような感触はありますが、逆にLatourにもそういった特徴はあります。

他の要素としては、ボディ?果実の凝縮度(intensity)?アルコール度数?香り?あるいは、これらの統合的な印象?

さらに混乱を招くのは、ワインは時間とともに変化するもの、ということです。

若いうちには強いタンニンと凝縮した果実を持っていたワインも、熟成によってタンニンが滑らかになり、果実の印象や香りの構成も変化する。

若いときには男性的だったワインが、熟成すると女性的になるのでしょうか。

そんなことを考え始めると、ますます分からなくなってきます。

比喩が悪いわけではない

「男性的」「女性的」という言葉をワインに使うべきではない、と言いたいわけではありません。性別で分けて考えること自体は、世界的に古くから行われてきたことです。女性差別などの話を始めるとハンムラビ法典(男女の非対称な扱いが明確に法制化された)あたりまで遡らなくてはならないのでここでは深く言及しませんが、欧米でもこうした性別による区分は文化に色濃く反映されていて、特定のアルコール飲料を“Girly drinks”なんて呼んでいたことも歴史的な事実なのです。ただ、Girlyが何を想起させるのかは時代と共に変化してきました。今ではトイレの表示・ベビー服などで男性は青、女性はピンクとすることに違和感はないかもしれませんが、20世紀前半のアメリカではピンクを男児に、水色を女児に推奨していたこともあります。

・・・と歴史的な背景を言い出すときりがないので結論を言うと、「意味が伝わるのであれば、使えばいい」

そもそもワインの表現には比喩が大量に使われています。

「力強い」「優美」「硬い」「柔らかい」「閉じている」。

ワインに筋肉があるわけでも、性格があるわけでもありません。それでも、こうした言葉を使うことで、酸度やタンニン、アルコール度数といった個々の要素だけでは表現しにくい、ワイン全体の印象を伝えられることがあります。「男性的」「女性的」も、そのような比喩の一つだと思います。

比喩は悪くないのです。私が気にしているのは、その比喩が何を意味しているのか、話している人同士で本当に共有されているのかということです。これは、ワインを勉強する(教えるときもですが)上でも非常に大事です。

同じ「男性」を想像しているのか?

先ほどもちらっと触れましたが、そもそも、「男性的」という言葉から思い浮かべるものは、同じ文化を共有していても人によって違います。

大柄で筋肉質な人?寡黙で落ち着いた人?荒々しい人?包容力のある人?

「女性的」についても同様です。つまり、ワインを説明するための比喩なのに、その比喩を説明するために、さらに説明が必要になってしまっているのです。

もし、

「このワインは男性的です」

と言われて、

「なるほど」

と全員が同じワインを想像できるのであれば、それは非常に便利な言葉です。私は未だによくわかっていませんが・・・

テイスティングの言葉は何のためにあるのか

WSETのテイスティングでは、できるだけ共通した言葉、基準を使ってワインを評価します。

酸度はlowなのかhighなのか。タンニンはどの程度なのか。アルコール度数、body、果実の凝縮度、余韻はどうなのか。

もちろん、こうした評価にも主観は入ります。同じワインを飲んだからといって、全員が完全に同じ評価をするわけではありません。

それでも、評価する項目と言葉をある程度共通化することで、「私はこう感じた」という個人的な感覚を、できるだけ他人にも伝わる形へ変換しようとしています。

そう考えると、テイスティングとは単にワインの味を当てるゲームではなく、自分が感じたものを他人と共有する作業でもあるのでしょう。ちなみに、WSETのテイスティング用語の中に「男性的」「女性的」というものはありませんし、答案に書いても加点対象になることはないと思います。

ワインは言語

前回、「アマローネ」という言葉について書きました。

日本語では「アマ」という音から甘いものを想像してしまうのに、イタリア語の amaro は「苦い」という意味を持っています。同じ音でも、持っている「辞書」が違えば、受け取る意味は変わるという例ですね。

今回の「男性的」「女性的」は、もう少し文化的な背景が深いです。

同じ日本語を話していて、同じ単語を使っているのに、その言葉から同じものを想像しているとは限りません。

言葉は、それを発しただけでは意味を持ちません。生活の雑音と何ら違いはないのです。

話す側と受け取る側の間で、ある程度同じ意味が共有されて初めて、コミュニケーションの道具になります。人間以外の動物もそうですよね。

ワインも同じです。

「男性的なワイン」に限らず、自分が気に入った表現をやめる必要はないと思います。意味が伝わるなら、使えばいい。

ただ、私はこれからも「男性的ですね」と言われるたびに、

「どの要素が?」

と聞き返すと思います。相手の「文化」を理解するためにも。

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