ワインは言語①

「アマローネ」なのに甘くない!?

「アマローネ」。

初めてこの名前を聞いたとき、皆さんはどんなワインを想像しますか?

「アマ」という音を聞くと、日本人ならなんとなく「甘い」を連想してしまう気がします。実際、そのように思っている方は何人かお会いしたことがありますし、Amaroneを飲んで、仄かな甘みを感じたことがある方もいるかもしれません。少量の残糖が認められていることに加え、appassimento(後述)由来の凝縮感や高いアルコール度数、グリセロールによる滑らかな質感(グリセロール自体にも弱い甘味がある)なども、甘やかな印象につながります。

ところが、Amaroneは立派な辛口のワインです。先ほど触れた通り、Amarone della Valpolicella DOCGの規定で残糖の上限が定められています。それどころか、この名前の由来を辿っていくと、むしろ「甘くない」ことを表すために生まれた言葉であることが分かります。

もともとは甘口だった?

Amaroneの故郷であるイタリア北東部Venetoには、Recioto della Valpolicellaという伝統的な甘口赤ワインがあります。

Reciotoでは、収穫したブドウをすぐに醸造するのではなく、風通しの良い部屋で数ヶ月乾燥させる appassimento という方法が用いられます。ブドウを乾燥させれば水分が減り、糖分やその他の成分が凝縮します。

このブドウを発酵させ、糖分を残した状態で発酵を止めれば、濃厚な甘口ワインになり、これがReciotoと呼ばれます。

ところが、発酵がそのまま進んだらどうなるでしょう。酵母は糖をアルコールへ変換するので、アルコール度数の高い辛口のワインが出来上がります。

辛口ワインへの嗜好の変化や醸造技術の発達とともにAmaroneは普及し、現在ではAmarone della Valpolicellaが世界的に人気の高いワインとなりました。

Amaroneの「amaro」とは?

ここで名前に戻ってみましょう。

イタリア語の amaro は、「苦い」という意味です。そして -one は、「大きな」「強い」といったニュアンスを加える接尾辞です。

Amaroneという呼称はこれらの組み合わせで、甘いReciotoに対して「苦い(amaro)」もの、つまり甘くないワインを区別する表現として生まれました。

Amaroneという言葉が大事というより、Reciotoという甘口ワインが先に存在し、それとの対比の中でAmaroneという名前が生まれたという順番の方が大事なのです。

日本語では「アマローネ」という音から甘口を想像してしまうのに、元の言語では真逆の意味になる。海外で商品を売るときに現地の言葉で変な意味にならないか気にすることもあるように、よくある偶然ですね。カルピスが英語圏では誤解を避けるためにカルピコ(CALPICO)になっていたり、Pocari Sweatが英語圏ではなかなか衝撃的な商品名に聞こえたりするのと似ています。

Amarettoも同じ仲間?

ここでもう一つ、似た名前のお酒があるのに気付いている方もいらっしゃるでしょう。

Amarettoです。

アーモンドのような香りを持つ、甘いイタリアのリキュールとして有名です。実はこの amaretto も、amaro と関係のある言葉です。

今度の -etto は小ささを表す接尾辞(Allegroに対してAllegretto、など)なので、直訳するなら「少し苦い」「ほろ苦い」といったところでしょうか。

面白いことに、

amaro = 苦い
Amarone = 「大きな」苦い
Amaretto = 「小さな」苦い

という親戚のような言葉なのです。Amaroneは甘くないのにAmarettoは甘い。

言語というのは、なかなか一筋縄ではいかないようです。

ワインは言語

ワインを勉強していると、覚えなければならないカタカナが大量に出てきます。

このページだけでも、Amarone、Recioto、appassimento……

試験勉強では、それぞれを一つの「単語」として暗記してしまいがちです。しかし、元の言語を少し覗いてみると、その名前が生まれた背景まで見えてくることがあります。

なぜAmaroneという名前なのか。その理由を知れば、Reciotoとの関係も、ワインのスタイルの違いも一緒に理解できます。ワインの言葉は、単なる暗記のための記号ではありません。

その土地の歴史や文化、人々がワインをどのように捉えてきたのかという記憶も、言葉の中に残されています。

「ワインは言語である」とよく言われます。

まずは①としてみましたが、このシリーズ(続けば(笑))ではワインにまつわる様々な「言葉」を入り口に、ワインの世界を少し違った角度から眺めてみたいと思います。

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